『七十二歳の卒業制作 学ぶこと、書くこと、生きること』 (創作童話シリーズ)

田村せい子・作 岡本よしろう・画(福音館書店)

家族を養うため、1カ月で中学を辞めなければならなかった著者。

ご自身の娘さんの大学入学を機に、一念発起、中学、高校

そして、大学へと進学されます。

著者の田村せい子さんは、梅花女子大学の児童文学・絵本コースの卒業生です。

児童文学の創作ゼミクラスにはいり、富安陽子先生の指導をうけます。

 

創作ゼミでは、卒業時に、卒業論文ではなく、「卒業制作」を提出することになっています。

『七十二歳の卒業制作』「第一部 君子・その時代」は、卒業制作をまとめた作品で、

終戦前から戦後の昭和期・少女から女性へ成長する君子が主人公です。

 

主人公・君子は、働くために中学を辞めることになります。

高校にも行けず、職を転々としながら、

家族を養う姿は、著者自身と重なります。

ノンフィクションのように感じるのは、書き手のうまさ。

いくら資料を調べたとしても、においや湿度、温度、音、空気感は

当時の体験者にしかわかりません。

防空壕からでたときの空気感、復員してきた父のぬくもり、初めて食べたドーナツの香り。

記憶をたよりに、フィクションをおりまぜながら、創作をされているのは

巻末の「作者あとがき」を読むとわかります。

 

実は、絵本教室でもカリキュラムのなかに、

「思い出童話」「飛び出し童話」を書くという課題があります。

『七十二歳の卒業制作』の「防空壕」は、創作ゼミの

「夏の思い出」の課題からつくりだされた作品とのこと。

自分の記憶をたぐりよせながら、創作していく手法を

経験してもらいたくてしている課題なのですが、

作品として完成すれば、本になりうるということが

証明されたようで、うれしかったです。

 

帯には

「文章を書くということは、人が生きるための力になりうる。

いくになっても、学ぼうという意志さえあれば成長できる。」

と富安陽子先生のことば。

 

私自身、学ぶことには年齢は関係ないと、常々、思っています。

遅々とした歩でも、前に進もうと思うことが大切です。

 

田村せい子さん、出版、おめでとうございます。

次作品、楽しみにしています。